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2018年5月18日 (金)

「邂逅の森」 熊谷達也

「邂逅の森」熊谷達也 読了。
電車の中で読み終えてショック状態。しばらく現実世界に戻れずに駅からの暗い道をゆっくりと歩きながらクールダウン。いや面白かった。

大正から昭和にかけて、秋田でマタギとして生きる男の物語。
私はこの作家さんを読むのがはじめてで、裏表紙にあるあらすじ以外の予備知識はなしで手に取りましたが、久々に物語にのめりこむ楽しさを味わいました。

自分の話になりますが、私の父方のルーツがかなりの田舎、山の奥のそのまた奥です。
(余談ですが母方のルーツは誰もが知る大都会。面白いものです)
今でこそ多少は行きやすくなったのですが、私の子供の頃は気軽に田舎に行こうとは口にできない、かなりの決心がいる遠い場所でした。

お店なんてなく、山の向こうはまた山。あとは神様がいるとされる湖。
遠縁のおばあちゃんが木から落ちたみみずくの雛を拾い育てて山に返したら
慣れてしまって、おばあちゃんが家の外に出るといつもどこからともなく現れた…。
雉、猿、狸、鹿、猪と野生動物をいくつも目にして共存する環境で、暮らしはつつましいもの、自然は怖くて神々しく畏怖の念を抱くものなんだなと連れて行かれるたびに実感しました。
もう、奥深すぎて風景に癒されるとか空気が綺麗なんてのを通り越しちゃってる。天狗が出るというのを信じていたし話し言葉は古語が混じってたもの。

そして親戚のおじちゃんが山の仕事をしていて、鉄砲打ちでもありました。
鉄砲はどうせがんでもダメだったけど、打った鹿やその皮は見せてもらい、
色んな肉を御馳走してもらいました。猟を恐いとは思わず、この場所で生活するというのはこういうことなんだなとおじちゃんや一族を尊敬していた。

…そういった自分の昔の体験や見聞きしてきた話、山の生活や肌で感じた空気がこの本を読みながら思いだされ、体感できるようでもう夢中でした。
他の人よりずっとリアルに読めたんじゃないかな。

もちろん、そういう田舎体験なんてなくてもぐいぐいと物語は迫ってきます。
地の文が上手すぎるので、なんのストレスもなく小説世界に入って「読む楽しみ」を味わわせてくれます。
読み終えて振り返るに、女性の機微が男目線に過ぎるかなと思わないではないですが力強く、素朴で厳しい名作だと思いました。
性描写も少なくないですがいやらしいとかエロいというものではなく、人が生きること、飾らず素の姿であること、山の中で生きることを描写する為の必然で、動物としての人を感じられるものでした。

まぁ、これらの描写があるのでこちらから中高生にもお勧めするのは控えますが、自分でたどり着いて読む子にはなんの問題もないです。
ちゃんと作者の真意は読み取ってくれるでしょう。

2004年の作品。直木賞と山本周五郎賞のダブル受賞作品とか。
本好きといいながらまだ読んでなかったのと言われる向きもあるでしょうが、素直にうなづきます。
読みはぐれている本、多すぎるわ。

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