いつぞやも書きましたが、香水が好きです。
とは言ってもマニアではまったくないので本数を持っているわけではなし、新作に飛びつくこともない。
折に触れて少しずつ手に入れたものを十数本所有している程度です。
香水と言うか香りが好きなんですね。花の香り、新しい本の香り、お線香からエスニック雑貨屋さんの香りまで。
一番好きなのは、雨上がりの森の木と土と湿り気の上に日が差した匂い。近くの神社の森でお参りと散歩と森林浴の時に嗅ぐと浄化される気分になります。(香水だとシダ・グリーン・ウッディ・樹脂・土のノートということになるのかな)
さて、話が逸れましたが最近おもしろい本に出会いました。
原書房 「世界香水ガイド」のシリーズです。
著者のルカ・トゥリン氏は嗅覚研究者にして香水マニア。パートナーのタニア・サンチェス氏とともに香水を批評するものなんですが、これがとーっても面白い。
香水って感じ方は千差万別、好みもそれぞれ。
細かく複雑な構成、ブランドのカラー、調香師の表現など入り組んでいて、それを言葉で表すわけですから、無茶といえば無茶。結局は「私はこう思う」というというしかないワケで、忖度なし、手加減なしでバッサバッサとなぎ倒していく様子は爽快としかいえません。
導入部には香水についての考察もあり、もちろんこれも興味深いですが、白眉はやはりレビュー部分。製品名・ブランド名に続いて1行で瞬殺されるもの、1ページを費やして微に入り料理されるもの、それぞれです。自分の愛用品を読むのも良し、購入前の参考に読むのも良し。
と、いうか「ガイド」とあるからにはそれが正しい読み方なのか?
今まで4冊出版されているようなのですが、困ったことに出版社サイトを見てもどれがどうなのかいまひとつわかりにくい。ついでに多分こう、というのを書いておきますと、
A 世界香水ガイド 1437 (2008年12月刊・絶版)
B 世界香水ガイドⅡ 1885 (2010年12月刊・旧版) ※Aにレビューを450点追記して2としたもの。
C 世界香水ガイドⅡ 1885 (2020年12月刊・新装版) ※Bと価格もページ数も同じ、表紙が違うのみの新装版
D 世界香水ガイドⅢ 1208 (2019年10月刊) ※内容にダブりなしの全くの新刊
…要するにCとDを買えばよろしい、ということですね。
この本を楽しむにはどんな商品があるか、その香り、ボトルデザインは、あるいは香水を構成する名称などある程度の知識があった方が面白いとは思いますが、その一方で香水に興味のない人には関係のない本かといえばそうでもなく、皮肉なものの言い回し、ユーモアやエスプリ、褒めてるんだか腐しているんだかを味わう面白さなどが好きな人にもお勧めです。ビアスの「悪魔の辞典」が好きな人やワイン愛好家、テイスティングを努める人にも面白いはず。
一つ問題があるとすれば、本文が白地にブラウンパープル文字なんですね。原書がそうだからなのか、装丁のオシャレさを狙ったものなのかは不明ですが「香り」や「音」って目が不自由な方も楽しむ人が多いジャンルでしょう。
奇をてらわず素直に黒文字でクッキリ印刷してくれるだけで弱視の方々も楽しめる本になるケースがあるとしたら不親切な話だなとちょっと思ったわけです。
この点、知識をもっている訳ではないのでピントのずれた感想になっていたら申し訳ないのですが、いつだったか山下達郎さんのラジオで「CDの歌詞カードがオシャレなデザイン過ぎて弱視の私には見えない。黒文字にしてくれるだけで読めるものが増えるのに」という葉書があって、それ以来気になっているのですよ。
出版社さん、次の改訂には識者に聞いたうえでご一考を。(そしてまた本の種類が増えて混乱すると)